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CWAJ現代版画展の軌跡

CWAJ現代版画展の60年

1956年10月22日、国際文化会館にて開かれた91点の木版画展示販売会が、長い歴史を刻むことになるCWAJ現代版画展の記念すべき第1回となりました。出版人チャールズ・E・タトル氏の発案と養清堂の阿部雄治氏の尽力により、美術評論家オリヴァー・スタットラー氏の著書『Modern Japanese Prints: An Art Reborn』*の出版に合わせて実現した企画で、同書で取り上げられた作家全員に数名を加えた39名の作品が展示されました。展覧会は大成功を収め、翌年以降も回を重ねていきました。初期のCWAJ版画展に名を連ねたのは、国際的にも知られる「創作版画」運動の流れを汲むパイオニアたちです。ひとりの作家による「自画・自刻・自摺」をうたう創作版画は、版元のもとで絵師、彫師、摺師が分業で制作にあたる江戸時代の木版画とはまったく異なるものでした。国際的な現代芸術の潮流も取り込みながら作家の個性や自由な表現を特色とする日本の現代版画は、スタットラー氏をはじめ戦後来日した欧米人の注目を集め、熱心に蒐集されていきました。

1967年 第12回版画展選考会風景(英字紙The Yomiuriより)
1969年 第14回版画展公募展受賞者

1956年10月22日、国際文化会館にて開かれた91点の木版画展示販売会が、長い歴史を刻むことになるCWAJ現代版画展の記念すべき第1回となりました。出版人チャールズ・E・タトル氏の発案と養清堂の阿部雄治氏の尽力により、美術評論家オリヴァー・スタットラー氏の著書『Modern Japanese Prints: An Art Reborn』*の出版に合わせて実現した企画で、同書で取り上げられた作家全員に数名を加えた39名の作品が展示されました。展覧会は大成功を収め、翌年以降も回を重ねていきました。初期のCWAJ版画展に名を連ねたのは、国際的にも知られる「創作版画」運動の流れを汲むパイオニアたちです。ひとりの作家による「自画・自刻・自摺」をうたう創作版画は、版元のもとで絵師、彫師、摺師が分業で制作にあたる江戸時代の木版画とはまったく異なるものでした。国際的な現代芸術の潮流も取り込みながら作家の個性や自由な表現を特色とする日本の現代版画は、スタットラー氏をはじめ戦後来日した欧米人の注目を集め、熱心に蒐集されていきました。

初回展の成功により第一線の版画作家の協力を得られるようになったCWAJ版画展は、日本の版画界での評価を高めるとともに、その収益により現在のCWAJ奨学金制度の基礎を築くことができました。奨学金で前途ある若者の勉学を支援するいっぽうで、若い作家を国内外に紹介する重要な役割も担ってきました。版画展の発展にともない、米国、ヨーロッパ、オーストラリアやニュージーランドでの海外展が開催されました。なかでも1985年から86年にかけて行われた巡回展は、北米数か所をまわったのちにロンドンの大英博物館で展示され、最終的には全作品が同博物館の永久収蔵品として寄贈されるという大規模な企画でした。同様に2005年の第50回展の作品は2007年にワシントンDCの米国議会図書館で展示され、終了とともに同図書館の永久収蔵品となりました。

1978年 第23回展でテープカットする モナ・ランキン カナダ大使夫人
1995年 第40回展で皇太子妃雅子殿下御臨席のもとスピーチをするオリヴァー・スタットラー氏

CWAJ現代版画展を特徴づけているのは、そのグローバリズムです。作家、審査員、展示販売会を訪れる来場者の国籍は多岐にわたりますが、それは主催団体であるCWAJ(College Women’s Association of Japan)の会員も同様です。この国際的に開かれたシステムにより、日本では他にあまり例を見ない、若手作家と大家の作品が同列に並んで展示され、さまざまな国から訪れた美術愛好家たちに選ばれ、購入されていくという伝統が生まれました。第1回展から英語で、1970年代後半からは日本語も加えて発行されてきた版画展カタログは、1985年以降すべての展示作品をカラーで掲載し、海外でも現代版画の手引書として活用されています。
CWAJは時代の流れにも柔軟に対応し、版画展の運営に工夫や改善を重ねてきました。作品管理や販売にいちはやくコンピューターを導入したほか、応募作品の増加にともない、国際的な選考委員による選考方法を確立しました。また版画界への謝意を込めて1985年に「版画家奨励賞」、2005年に「ヤングプリントメーカー賞」、さらに2011年には「版画家奨励賞」に代わる「アーティスト・イン・レジデンス・プログラム」を設けました。2015年には60周年記念大賞展を企画したほか、日本美術研究者を対象としたCWAJ現代版画展60周年記念奨学金も提供しています。

2008年には初めて神戸展を開き、2013年からは神戸ビエンナーレ連携事業となりました。1968年から登場した「併設展」は、毎回異なるテーマをもった企画展として、版画の多様性をより深く理解していただくことを目指しています。1996年以来、視覚に障害のある来場者にも立体コピー図で版画を楽しんでいただけるようにと続けてきた「ハンズ・オン・アート」は、すべての来場者にとって新鮮な体験になっています。

このように、CWAJ現代版画展は60年の長きにわたり、ユニークな立場から日本の版画界の発展を見守り、記録し、支えられてもまいりました。CWAJ現代版画展そのものが、CWAJという団体の活動のもっとも重要な成果のひとつであるといえましょう。

 

*邦題『よみがえった芸術 日本の現代版画』猿渡紀代子監修・CWAJ翻訳。玲風書房より2009年に刊行。

2007年 米国議会図書館で行われたCWAJ版画展のオープニングには版画作家も多数参加した
2013年 第58回展にてCWAJが日本の版画界に 果たした役割を語る100歳の篠田桃紅氏