「そこに必要性があるから」と手を差し伸べ、「まだ誰もやっていない」ことに敢えて取り組むパイオニア精神、これこそがCWAJの活動の原点です。CWAJのあゆみは正にそのような歴史の積み重ねです。
1949年、戦前アメリカ東部の名門女子大マウント・ホリヨーク・カレッジを卒業した日米の同窓生たちが日本で再会し、敗戦国日本の将来を担う若者たちの米国留学を支援しようとマウント・ホリヨーク・クラブを立ち上げました。わずか数年前までは「敵対国」だった米国と日本の女性たちの温かい支援活動とその趣旨に賛同したウェルズリー・カレッジの同窓生が参加し、善意と友情の輪は次第に米国全土の大学の卒業生たちや世界各国の女性たちへと広がっていきました。
1963年には正式名称をカレッジ・ウィメンズ・アソシエーション・オブ・ジャパン(CWAJ)として、今日に至っています。
I.「女性を教育することは一世代を教育するに等しい」
教育は平和への道。戦争にも、災害にも決して破壊されることのない財産であり、次の世代へと確実に引き継がれます。
女性への高等教育こそよりよい平和への近道との信念に基づいて、アメリカに留学する学生にドルで渡航費用を捻出するために、様々なイベントを企画し、その純益により1951年に9名の第一期海外渡航生を送り出すことができました。外貨持ち出しの制限や渡航費用の工面に苦慮していた男女学生は、この援助資金で海を渡り世界に羽ばたいて、戦後の日本を支える人材や女性パイオニアとして活躍しました。
1972年、600名近い男女学生を海外に送り出した渡航費支援プログラムを終了。男性の大学進学率が41%であるのに対して女性の大学進学率は12.7%という時代の中で、海外の大学院への留学を志す日本人女性のためにCWAJ海外留学大学院女子奨学金プログラムを立ち上げました。また、1978年には、男女学生を対象とした視覚障害学生奨学金を設立し、障害を乗り越え、社会で活躍する多くのリーダーを輩出しています。
1988年にはさらに対象を拡大して、日本の大学院に留学している外国人女子学生のための奨学金を設立し、女性リーダーの育成をさらに進め、阪神淡路大震災や東日本大震災の際も奨学金で復興を支援しています。さらに2021年度より3年間、 コロナ禍のためCWAJ看護学生奨学金を授与しました。
これまでに支給した奨学金の総額は約10億円、海外渡航生・奨学生の総数は870名を超え、外国人留学生の国籍は49か国にも及んでいます。
II. 版画展と教育支援
海外渡航費用のための募金活動は当初、オペラ、チャリティ・ダンス・パーティーなど様々な企画で行われていましたが、1956年には第一回CWAJ現代版画展を開催、日本の誇る版画芸術を在日外国人に紹介しつつ、その純益で渡航費用を支給するシステムができました。以来、版画展はCWAJの主な活動の一つとして60年以上にわたり毎年開催され、国内最大の公募の版画展として世界的にも高く評価され、CWAJの文化交流と教育支援の基礎となっています。1996年には、版画展出展作品数点を立体コピーに作成した「視覚障害者と楽しむアート、ハンズ・オン・アート」を企画し、以降、晴眼者も視覚障害者もともに版画展を楽しむ機会を提供しています。また、海外でも大英博物館、オーストラリアのニューサウスウェールズ美術館などで巡回展を開催し、好評を博しています。2007年にはワシントンDCの米国議会図書館でCWAJ版画展50周年記念展が開催され、その後同図書館に出展作品がすべて収蔵されています。2016年には60周年記念展「還暦」がアメリカ、マサチューセッツ州ケープコッドのファルマス、ハイフィールドホール・アンド・ガーデンズでも開催されました。
CWAJは版画家の育成にも力を注ぎ、版画家奨励賞、ヤング・プリントメーカー賞などを通して若い版画家を支援しています。
III. 国際理解への道 ~ 英語教育と異文化交流
これからの時代には国際理解と共通語としての英語力の重要性を早くから認識していたCWAJは、社会に先んじて英語教育の促進に力を入れて活動してきました。1962年より英語教育活動を開始し、教授法セミナーの日本各地での開催、 高英検(高等学校英語教育研究会)との交流などを通して英語教員の質の向上に貢献しました。1976年設立の視覚障害者との交流の会(VVI)は生きた英語に触れる機会を提供しようと、日本盲人職能開発センターでの英語の授業や筑波大学付属視覚特別支援学校での英検面接模擬試験など実践の現場で活動しています。また年3回開催する英会話の集いでは、会員による世界の国々の紹介や大使館訪問などで生きた英語による異文化理解の機会を提供され、毎回30人にも及ぶ視覚障害者が参加されます。また、日本の大学に在籍し、学業に忙しい外国人留学生に日本文化に触れてもらうプログラムを1990年から提供しています。今はその役割を終えましたが、1979年に始まった帰国児童の英語力維持のための英語クラスはパイオニア的プログラムであり、30年以上にわたって活動しました。
日本に駐在している外国人により深く日本を知ってもらうために1966年に文化教養講座(レクチャー・シリーズ)を創設しました。日本文化のみならず世界の問題を様々な分野の専門家の講演を聞きながら共に考えるこの公開プログラムは2003年まで34回にわたり開催されました。翌年にはカルチャー・プログラムに引き継がれ、より身近なテーマでの講演や見学会を企画しています。
IV. 復興支援
「そこに必要性があるから」というCWAJの特色は災害においても発揮されました。1998年の阪神淡路大震災ではJAWK(関西日米婦人会)と連携して、2年間に20名の被災学生に奨学金を支給しました。2011年の東日本大震災に際しては被災者のメンタルケアの重要性を認識し、福島支援プロジェクトを立ち上げ、被災地でのメンタルケアの拠点で役立つ医療用リフト付き車両を寄贈しました。心のケアに最も必要とされる看護師を目指す学生が被災によって学業を断念することがないように福島県立医科大学看護学部対象の福島支援奨学金を設立、2019年現在延べ20名の看護学生/大学院生に支給しています。また多摩美術大学の協力を得て福島の子供のためのアートプロジェクト「あそびじゅつ」を福島県内で5年間にわたり開催し、福島の人々との交流を深める活動をしています。
V. ともに働き、ともに楽しむ
CWAJのプログラムは100%ボランティア。会員は奨学生の選考も、版画展の準備もすべて会員がボランティアとして活動しながら友情を育んでいます。同じ目的のためにともに働くことでお互いの理解を深め、昼食会の講演で視野を広げ、同好会で趣味を楽しむ時間をもっています。
世界では紛争が絶えず、異なる文化・宗教や意見が排除される傾向にある昨今、かつての「対戦国」であっても、文化や宗教が異なる出身者であっても、寛容で柔軟な心をもって互いを尊重しあい、友情を育みながら同じ目標をめざすCWAJの活動は、平和な社会へのあゆみの一つの証と言えるでしょう。
CWAJはこれからも世の中の動向にも目を向け、創立の精神を忘れずに活動を続けていきます。