CWAJ現代版画展50周年を迎えた2005年に、版画界への謝意と未来を担う若い版画家への期待をこめて、ヤング・プリントメーカー賞を創設しました。応募資格があるのは、前年に版画学会主催の全国大学版画展で美術館優秀賞を受賞した約30名です。受賞作を含めた数点の作品と賞金活用の企画案をもとに、将来性と独創性に重点を置いて審査し、毎年1名に賞金50万円を授与しています。
受賞者には賞金に加えて、その年のCWAJ現代版画展で受賞作品を展示し、さらに3年後の版画展でも新作を発表する機会が与えられます。これまでの受賞者の多くが、新進版画家として着実に歩を進めています。
2024年度ヤング・プリントメーカー賞受賞者
青栁 有華
1999年 東京生まれ、東京在住
日本大学大学院芸術学研究科博士前期過程造形 芸術専攻在籍
2023年 日本大学芸術学部学部長賞 受賞
日本大学芸術学部美術科優等賞 受賞
第48回全国大学版画展 優秀賞
第90回日本版画協会 賞候補
2024年 第3回TKO国際ミニプリント展 佳作賞
第2回極小版画コンテスト 叙情景表現賞
私は、文学をベースとした作品に関心を持ち、記述された事柄を読み解く「解釈」をテーマに制作を行っています。私は小さい頃から小説や歴史的出来事などを自分の中で噛み砕いてオマージュして表現することが好きでした。その経験から、文学作品の要素を織り込んだ抽象画を制作しています。『YATSUHASHI』は、伊勢物語九段「東下り」という場面を画題にしています。伊勢物語とは、諸説はありますが、10世紀前半に成立した、和歌を中心とした日本の古典文学作品です。特に「東下り」は尾形光琳『燕子花図屏風』を筆頭に、画題として多くの人々に描かれています。「東下り」のあらすじは、主人公の“ある男”が自らを役に立たない人間と思い込み、東の国へ旅に出ます。八橋という場所で燕子花が咲いているのを見て、ある男は都に置いてきた妻を思う和歌を詠み故郷を偲ぶ、という内容です。この物語の場面から取り上げられるモチーフは、和歌に用いられている燕子花がほとんどですが、いくあてのない“ある男”の心境として、地名の八橋の由来となった橋は、物語の中で重要なモチーフになるのではないかと考えて制作しました。
版画作品の平面性に立体性を加えることによってどのような効果が得られるかの試みと、6枚の画面から成る尾形光琳『燕子花図屏風』へのリスペクトを込め、6枚の長細いパネルに裁断した銅版画を一枚の絵になるように張り込みました。この作品を様々な角度でお楽しみ頂けますと幸いです。YPA賞で頂戴致しました賞金は、銅版プレス機の購入にあてさせて頂きたいと考えております。
CWAJ現代版画展 ロロ・ピアーナ女性アーティスト奨励賞
イタリアを代表するファッションブランドのロロ・ピアーナ ジャパン社が、50年にわたり女性リーダーの育成に注力してきたCWAJの理念と日本の現代版画を世界に紹介してきたCWAJ版画展の歴史に共感して、今年も女性アーティストのための賞をご提供くださいました。
第67回CWAJ現代版画展の応募作品の中から3回目となるロロ・ピアーナ女性アーティスト奨励賞(賞金50万円)の受賞者に選ばれたのは、日本と韓国にルーツを持つ注目の新進版画作家として将来を嘱望される朴愛里さんです。この賞が朴さんのさらなる飛躍と日本の版画界の発展に貢献することを願ってやみません。
朴 愛里
1992 東京都生まれ 埼玉県在住
武蔵野美術大学卒業 同大学院在学中
2021 第8回山本鼎版画大賞展 優秀賞
2023 池袋アートギャザリング公募展 2023 準IAG大賞、ギャラリー上り屋敷賞
2023 第48回全国大学版画展 優秀賞、町田市立国際版画美術館賞
「母娘」は、母と娘の時間を描いた私小説的な作品です。手元にある家族写真の中で母と一緒に撮られた写真を選り分け、その中でも穏やかな一時が撮られた写真を拾い出し、中心となるイメージから様々な場面が同心円状に広がるように構成、定着させました。自分が今の自分に至るまで、多くの影響を与えた母親との関係、絆を二人が過ごした些細な時間を描くことで確かめようとしました。今後は銅版画という技法の可能性と自作との関係についての考察を深め、上々に作品を成長させ、作家としても、教育者としても活動することを目指しています。