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CWAJ奨学金のためのチャリティ ヴァイオリンコンサート -川畠成道氏インタビュー

川畠成道 ―耳を澄ませば音楽が―

3月21日に開催予定のCWAJチャリティーコンサートで演奏して下さる世界的ヴァイオリニスト川畠成道さんに、音楽のこと、チャリティーへの想いなどを語っていただきました。

(コンサート情報はこちら:https://cwaj.org/jp/2021/12/15/cwaj-kawabata-violin-concert/

聞き手:安原理恵(CWAJ会員)

VVIニューズレター2021年秋号より (一部編集済み)

川畠さんは1971年生まれ。8歳のとき旅行先のアメリカで、服用した風邪薬が原因と思われるスティーブンス・ジョンソン症候群に見舞われ、一時は命が危ぶまれる状態になりました。献身的な医療スタッフの治療により回復したものの、視覚に障害が残ってしまいました。ヴァイオリンの先生をされていたお父様は、視覚に障害があってもできる仕事をということで、成道さんをヴァイオリンの演奏家として育てようと決意しました。プロのヴァイオリニストを目指すにはやや遅い10歳という年齢ではありましたが、家族一丸となっての猛練習がそこから開始されたのです。桐朋学園大学卒業後、英国王立音楽院へ留学。1997年、同院を同院史上2人目となるスペシャル・アーティスト・ステイタスの称号を授与され首席で卒業、翌年、東京サントリーホールにおいて小林研一郎指揮、日本フィルハーモニー交響楽団との共演でデビューしました。その後、英国と日本を拠点にソリストとして精力的な活動を続けておられます。(川畠成道さんオフィシャルサイトより)

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世界的な演奏家ということで、私は非常に緊張してインタビューに臨みました。しかし川畠さんは、そんな私の緊張もほぐして下さりつつ、一言ひとこと丁寧にお話をして下さいました。

以下はそのときのお話を安原理恵が記事にまとめたものです。

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●コンサートについて:

コンサートでは、皆さんに楽しんでいただけるように、そして今まで触れたことがなかった方にもクラシック音楽を好きになっていただけるきっかけになるようにと思って演奏しています。ですから演奏する曲目は、それぞれのコンサートに来て下さる方々を意識し、コンサートの趣旨に合わせて自分が届けたい曲も入れるなどして、なるべくバラエティーに富んだプログラムにしています。
私は楽譜を見ながら演奏ができませんから、すべて練習段階で暗譜します。しかしどうしても、昔覚えた曲を忘れてしまうこともあります。その時はまた暗譜し直し、その後コンサートで演奏できる曲に作り上げて行きます。それでも不思議なもので、若い頃覚えたものは比較的きちんと覚えているのです。 これは「中学校の時に覚えた英単語は覚えているけど、大人になってから勉強したものは・・・」と似たところがあるかもしれませんね。
コンサートはまず日時が決まり、そこに向けて関係者との調整や自分自身の練習などと準備を進めて行くわけですが、思い通りに進まないことももちろんあります。また、思い通りの演奏ができず落ち着かないこともあります。しかし、思い悩む時間があることも自分自身が次のステップへと成長して行くチャンスだと捉えています。

パートナーのヴァイオリンのこと:

現在使用しているヴァイオリンとは、約25年前にロンドンで出逢いました。恩師から「楽器を選ぶ時は一目惚れでないといけない。迷う気持ちがある時にはやめたほうがよい。」と言われていました。楽器店でこのヴァイオリンを弾いてみて比較的すぐに購入を決めたので、恩師の言葉を借りれば一目惚れということになるでしょうか。手に入れた直後と今では楽器の音が変わってきていますし、この楽器にはまだまだ私が知らない可能性が秘められているように感じています。日々楽器に育てられています。私のヴァイオリンは1770年製です。これはベートーヴェンが生まれた年でもあります。ヴァイオリンはとても繊細な楽器ですが、それだけ長い期間生き残ってきた強さも持ち合わせていると思います。

●チャリティーに寄せる思い:

まず、自分は本当に多くの方々に支えていただいて、演奏を続けられているということがあります。アメリカで病気になった時にケアしてくれた医療従事者の皆さんやボランティアの方々、演奏家になるまで、そしてなってからの活動を支えて下さっている関係者の皆さん、演奏会を聴きに来て下さる方々、そして家族など、数え上げればきりがありません。私に与えられているのは演奏することなので、それを通じて、支えて下さる皆さんに、そして社会に少しでもお返しができたらと思い取り組んでいます。
自分自身が視覚障害者となりヴァイオリンに出会い、世界各地に出かけて多くの方々に演奏を聴いていただく中で、障害などさまざまな事情で、コンサート会場に行きたくても行けない方がおられることを知りました。それならばこちらが出向くことで、より多くの方にクラシック音楽に触れていただけるのではと、施設などを訪問しての演奏も行っています。チャリティーコンサートの中にはもう20年程続いているものもあり、初回のころは小さかったお子さんが、今では立派に成長されていたりします。そのように長く続けさせていただいているコンサートからは、通常のコンサートとはまた違う力をこちらがいただいています。クラシック音楽をきちんとした環境で聴いていただくことができる状況さえあれば、可能な限りチャリティーの依頼はお受けするようにしています。機会を与えられて社会にお返しする演奏活動ができていることに、とても感謝しています。

●コロナ下での時間を有効活用:

ご多分に漏れず、私の関わるコンサートもほとんどが中止/延期となり、家にいる時間が本当に長くなりました。差し迫ったコンサートに向けての準備をする必要が格段に減りましたので、音楽家としての長い人生を考え、今やっておくべきこと、例えば演奏技術や表現力の向上などに取り組んで時間を過ごしています。また遠い昔に演奏した曲を久しぶりに取り出してみて、懐かしく演奏をすることもありますね。

●経験のすべてが音楽に返って来る:

音楽以外のことに触れることもとても大切にしています。例えば、まったく違う分野、天文学や歴史学の本を読んだりテレビを見たり。一見すると音楽には関係がない経験も、何かしらの形で音楽に影響を与えると思っているからです。また音楽については、昔はヴァイオリンの技術を向上させることだけに注力していましたが、最近では他の音楽にも興味を持つようになり、音楽という大きなものの中の「ヴァイオリン」というように見られるようになりました。そのことで、今まで以上にヴァイオリンに楽しく関われるようになったと感じています。
生きていれば大なり小なりうまく行かないことはあると思います。その時々にできることを1つずつこなして行く、時には少し休む、または自分から少し離れたところから自分自身を捉え直してみる、などいろいろな対処法があるかと思います。何が正解なのかは分かりませんが、それでも演奏家として続けて来られていますので、今後も周囲への感謝を持ちつつ、自分なりに精一杯活動して行ければと思っています。

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インタビューに先立ち、私は川畠さんが書かれた本「僕は、涙の出ない目で泣いた。―視力障害の天才ヴァイオリニストがつかんだ人生の光」(扶桑社、2000年12月発行)を読ませていただきました。アメリカで病気になられた時のこと、ヴァイオリンの猛練習生活、イギリスに留学されてからの大変だけれども楽しいエピソードがたくさん詰まった日々、そしてヴァイオリニストを目指し続けてきた中で考えてきたこと等が、とても分かりやすい文章で書かれています。 皆さんにもお奨めしたい一冊です。

なお、川畠さんの以下のオフィシャルサイトより、発売されているCDや出版されている書籍・演奏会の予定や詳しいプロフィールをご覧いただけます。

http://www.kawabatanarimichi.jp/index.html

最後に、今回のコンサートを実現させたCWAJサイドのキーパーソンの一人は、CWAJメンバーであるナオミ・ロバーツです。彼女には喜谷昌代という叔母がおり、喜谷さんは生涯を通じて世界中でチャリティー/ボランティア活動をされていました。イギリスに永住し2年前に他界された喜谷さんは、川畠さんがイギリスに留学中、サポートをされていたそうです。喜谷さんのご存命中、ロバーツは喜谷さんと共に、ある慈善団体のためのチャリティーコンサートを企画し、川畠さんに出演して頂きました。そのようなご縁を通じて、今回CWAJ奨学金基金のための協力をお願いしたところ、快くお引き受け下さり、チャリティーコンサートが開催できる運びとなったのです。来る3月21日に川畠さんが届けて下さる音楽で皆様と素敵なひとときをご一緒できますことを、心から願っています。

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